人々のように物わかりが果していいでしょうか。あやしいものね。こうやって、若々しい楓の枝かげに、芽《メ》を出したばかりの春の羊歯《シダ》の葉に飾られてある壕は風雅ですが。十分深くもあるようですが。
 それが終り一仕事片づいたわけです。十一時に河合の春江という従妹が来ました。咲の姉よ。一番わたしと親しくして、今つかっているペン(赤い軸の。覚えていらっしゃるかしら? モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]、ベルリン、ロンドンと一緒に旅したペンです、そして、様々の夜昼を共にもして)をくれたひとです。おくさんらしく用で来たのですが、わたし一人ときくと(電話)「アラマア可哀想に、じゃおひる一緒にたべましょう」と食料もって来てくれたわけです、一緒にパンたべ、玉子もたべ(大したことでしょう)ゆっくりして、いろいろ家のこと、その他(鶯谷のすぐそばで沿線五十メートルの中に入り家がチョン切れることになったので)話し、今、息子からさいそくされてかえりました。
 そこでわたしはお握りを一寸たべて、早速かけこんで来たわけよ、あなたのところへ。ああ、やっとよ、というわけで。
 さっき、その従妹の来ている間に配
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