実はその域を越して居ります。
そういう空気の中ですが、けさは小さい畑にホーレン草の種子をまきました。あしたの朝は不断草というのを蒔きます、朝の落付かない時間の仕事にいいし。
この頃は省線小田急なども時間で切符制限して居り午前六―九。午後四―七は通勤人でなくては駄目。汽車も回数券はなくなり、定期も通勤証明です。千葉の往復も大変になります。
この次の手紙は程なく書き、そして生活にいくらか上手になったことのわかるのを書きたいと思って居ります。
四月十日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
四月八日
もう梅雨のような雨でした。大笑いよ、わたしが朝飯前に畑へ種子を蒔いたりしたから忽ちだ、と。けれ共いい工合にこの位の雨であったら蒔いた種子が流れ切ってもしまいますまい。あんまり黒煙濛々たる手紙さしあげたから、すぐつづけて、マア其なりにどうやらすこしずつ手に入って、台所で煮物の番をしながら本をよむ気にもなって来たことを御報告しなければ相すまないと思いまして。
台所用の本(!)はトルストイとドストイェフスキーの細君たちのメモアールを集めたものです。やっぱり夫婦はこういうものな
前へ
次へ
全357ページ中75ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング