宛 駒込林町より(封書)〕

 三月二十三日
 風が荒いけれどもそれも春らしいというような日になりました。今丁字の花が咲き、よく匂って居ります、目白の庭石のよこにおいて来たのも咲いているかしら。
 きのうは、どうもありがとう。余りな話だったので自分では十分耐えたけれども、眠れなくなって。すぐ露見するから大したものね、露見することが大変うれしいと思いました、観破して下さるということが、ね。
 けさは、国府津引上げのため、こちらにいたひとも呼出しで、国の朝飯のことしてやり乍ら、心から感じたのは、こうやって台所で働き、みそ汁をつくり香のものを切るならば、わたしはその人のためにこういうことみんなしたい人があるのに、と。まことにまことに切にそう思いました。そして又思いました。同じ親をもって生れたということは不思議だと。生活の条件の相異でこうもちがうものか、と、氏より育ちをおそろしく思いました。
 今度のことは余りのことだから、わたしとして譲歩いたしません。きっとこうなるのよ、今に。Kは事務所を閉鎖してしまい、自分も開成山へゆき、ここは全然なくするから、私は東京にいるならいるで云々と。来年まで待た
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