だからこう吹くといやね、外出しないですむので大仕合わせですが。
こんどは大変かりかたになってしまいました、二十一日、二十三日、そしてきのう届いた二十九日の分。
「ドン・キホーテ」のこと世田ヶ谷へきいてやってじかにそちらへ返事をたのみました。あの作品はほんとにそうでしょうね、そしてその男らしい笑いの中には、あの時代の頭をもたげた市民精神の強壮さも粗野さもあることでしょうし、罪のないひどいあけすけもあるわけです。「ドン・キホーテ」が完訳にならない部分というのはその部分なのね、昔から。大体中世から近世へかけての文学には、ボッカチオの或作品のように諷刺としてのあけすけがあり、それが後世の偽善的紳士淑女を恐れさせ、中世のドイツ詩なんか随分古語のよめない人には知られない傑作があるそうです。暗黒時代と云われ、宗教があれ丈残酷な威力をふるった半面に、そういう豪快なところがあったのは面白いと思われます。それにつけて今くやしがることがあるのよ、動坂へ家をもったときビール箱に五つも本を売ったでしょう、あのときわたしの旦那様は「惜しがる必要ないよ、いい新版がいくらだって出るんだから」と仰云いまして、愚直なる
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