です。マア、お母さんわたしが、というのが自然のこころで、それでやはり参るのは参るから。どうぞね、目白の先生も、途中のゴタゴタとこの点だけよ、いく分どうかというのは。でもこれで二ヵ月のばして、わたしはいくらも丈夫になれません、ここまでになったのもマアいい方なのだもの。来年やもっと先が当にならないからきめてしまいましょうね。
 ここの家を処分して郊外にうつろうという案があります。咲、私大体皆のりきです。この家の非能率性はこの頃もう殺人的パニック的よ、こころもちに甚大に及ぼして来ています。国府津へ行って、こっち留守番暮しというのがはじめの案でしたが、国府津は東海道線に沿っていて、何しろ前が本街道ですから、パンパチパチが迫って、あの街道を日夜全隊進め、伏せなんかとなったらもうもちません、そういう地点に、女子供だけ目だつ別荘にいるなどとは一つの安全性もないことです。この際この家を処分するのは、ここの人たちにとって又とない好機です。すこし荷厄介を負っているところはどこも同じ問題よ。
 うちの通りの向側に市島という越後の大地主が、殿様暮ししていたのが、いつの間にやら水兵の出入りするところとなっている
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