うと、あとに大変気が配られます。一ヵ月というものを、只三十日と考えることが出来ないから。
きょうは、これでなかなかいい日になったのよ。さっき裏の画伯が来て、川越の先の部屋[自注2]かしてくれるということになり、これも大安心です。島田へ行く前にそちらへ引越ししておいて、そしてゆっくり行けますから。こっちへ一応の単位を揃えておくつもりです、机その他本棚も。第一、あなたのふとん類おくところが出来て、何と気が楽でしょう。二十日すぎに見に行きます、そして、すぐ荷を運んでおいてね。わたしもここにともかく場所が出来、目黒の先の大岡山に寿江の室をこしらえ、まあどっちへ行ってもいいことになって気がのびます。大岡山の室[自注3]というのは大した眺望で、ゾラが巴里を高い郊外の住居から感じたように、何か東京というところを俯瞰する感じのところで一寸面白いところよ。富士が見えます、秩父の山々も。空気もよいの、川越の方は田圃の中に電車の駅が一つあって、そこからすぐですって。そこは農業の家で亡主人が絵をかき、そのためにマッチ箱的別棟アリ、その二階をかりるわけです。まわりには川と田だけ。未亡人は昔から家政のきりもりを
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