にし、ギルドのくずれかかる時代の新興市民にたよる過程など実に堂々としているくせに、最後の部ではカトリーヌの霊というのを出してロベスピエールに政論をさせています。しかもそのカトリーヌのおばけは、気の毒にも十八世紀のヨーロッパを股にかけて世情の混乱につけ入った大山師ドン・カグリオストクロの宴会で出て来るのよ(十八世紀をもって、世界的山師は終焉いたします)。
 バルザックは、自分のそういう不思議な性格的すぽぬけを、例の大上段の云いまわしで、神秘を感じずにいられない程強い精神と称しています。こじつけながら一面の真実ですね、何故なら、彼は少くともすぽぬけを直感して神秘につかまらずにはいられない高さ迄は、人間喜劇[#「人間喜劇」に傍点]の柱をのぼりつめたのですから。
 この人間喜劇[#「喜劇」に傍点]ということばも、おっしゃるとおりと思います。コメディアというものの内容の性質は、時代との関係で大したものね。シェイクスピアが悲劇をああいう形でかき、喜劇をああいう風に笑劇、ファースの要素を多くかいたということは、エリザベスの時代の鏡です。モリエールが悲劇として書かず、喜劇としてあれだけのものをかいた神
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