て行ったから、個人の権利の主張が直ちに開拓者的自在性、自信、腕で来い、適者生存ということのむき出しの現実とつながって、ドイツ風な教養小説の精神、個性の完成というような問題が、その日々の現実の中で、解消されてしまったようです。アンの本を見ても其を感じます。歴史的過程として自身を感じるというより、この瞬間の感情的生活が最も多様な要素を集約している、という風ね。
 だから、アメリカ文学の波の動きも独特で、個性というようなのはポーぐらいではないの? ホイットマンはもうそういう生成過程のアメリカがマーク・トゥエンの時代からそこまで動いたことを示す社会的精神であったしシンクレアにしろ更にヘミングウェイにしろ、個性に加うる社会性――芥川と彼の時代への感応――という風ではなくて、もっと大づかみなアメリカ気質と呼ばれるべきものに時代性がくっきり刻まれているように思われます。彼等の進歩のしかた、新しくなりかたはそういう風で、一本の樹の梢があれ丈ゆれるから、さてはあの山は風が当るな、と思って見られるのではなくて、山じゅうが揺れるみたいで、その中で、特に目立つ樹が目につく、という風ね。封建的なものを知らない[
前へ 次へ
全357ページ中300ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング