りふれた意味で分散させて置こうとしたのよ。原稿紙や古布類を。段々ときが経つうちに、気持がちがって来て、わたしが一緒に疎開して暮すとき必要なものを、と思うようになって来ました。そういうとき、どんな形で暮すのか、全く今は判らないけれども、何処ということさえ茫漠として居りますが、たった一つ極めて明瞭で、こころを動かすことがあります、それは「|一緒に《ス・トボーユ》」という短い言葉です。これは詩の題として恥しからぬ表現です。一巻の美しい物語の題であり得ます。この言葉をくりかえしくりかえし考えていると、つまりはこうして話し出さずにはいられなくなって参ります、わかるでしょう?
動坂以来、いくたびか引越しをいたしました。けれどもこの言葉が、こんなに生々として中核にある移りかたというものは知りませんでした。これは何と瑞々しい気もちでしょう。何か愉しげなような[#「ような」に傍点]感じでわたしを揺ぶります。自分で自分に訊きただします、(何だかいぶかしくもあるのですもの)果して愉しいことなのかね、と。さすがに、すぐは返答しかねるのね。まさか、そう単純でもないわけですもの、全く。でも、やっぱりわたしがその
前へ
次へ
全357ページ中237ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング