しい猟人よ、矢をつがへよ。われは ひとはりのあづさ弓、矢をつがへよ。斑紋《ふもん》美しき鷹の羽の箭《そや》をつがへば、よろこびにわが弦は鳴らん、猟人よ。
 白い藤をくれた古田中さんの 孝子の俤 というのが出来上りました。お目にかけます。あなたは孝子夫人にお会いになる折がありませんでしたが、写真を御覧になったら、きっと西村の系統のふっくりさをお見出しになるでしょう。母の若かった頃お孝さんに似て居りました。白藤の感想おきかせ下さい。今よみかえしてみると、体のまだ弱いところが分る筆致なように思われますが。このお孝さんの思い出と、母の『葭の蔭』の中の幼時の思い出と、くみ合わして編輯すると、明治というものの香が高く面白いでしょう。西村の向島の「靴場」[自注10]が、母の方の西村のそばで、この靴場の炊事場で小さい女の子の母が、沢庵のしっぽをしゃぶって遊んだりしたのですって。高見さんの文章の銅像は、こわして先頃献奉になりました。では又ね。これからは今までより手紙かく時間が出来てうれしゅうございます。

[#ここから2字下げ]
[自注10]西村の向島の「靴場」――百合子の母の叔父にあたる人が靴工場を経
前へ 次へ
全357ページ中187ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング