それはいいわ。おそすぎました。間に合うかどうかの境です。しかし問題は寧ろ、口の方です。前便で申しあげました通り。一日一日とこのことが痛切となり、体力と経済力とのかけっこの露骨さが感じられて来て居ります。殆ど自然状態の生存競争に、最も高度な経済事情が人為的に加っていて、おそるべきものです。明白に恐怖という字がつかえます。ですから、家のこと=住むところの問題は、全く遊牧民的条件で決しなくてはならなくて、決して、近代的の交通問題によりません。面白いというか、すばらしいというか。大したものね。家畜は牧草のあるところへと目ざさなくてはなりません。人間の踏破[#「踏破」に傍点]の様々の形態を思いやります。世界中が現在は、最も近代的な速力によっての踏破と並行に、最も原始的踏破を行っているというわけね。めいめいの足の寸法での。実に様々の流れがあるわけです。鉄の流れ(セラフィモヴィッチの詩小説)のみならず。騒然と、しかし着実に歴史が移りつつあるというのは実感です。
 前の手紙に申しあげたようなわけで、わたし一人だけでどこかに家をもつ――部屋をかりるということは殆ど不可能です。今はどこも、いいツルをもって
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