くつよく健やかになったとき、大きい変化が見られることでしょう。日本でも、あああの男は政治家だ、という場合、それは決して信頼すべき人物だ、という同義語ではないところに、いろいろのことがあるわけでしょう。人間学通暁者、歴史推進者が政治家である、という観念がゆきわたり、そういう実在が見られるには時間がかかることです。
 フランス人は政治家ずれしているところがありますね、精神史的に。又、政治くずれの面もあるようです。偉大な出来ごとの、真の偉大さを把握しないで、フランス人の皮肉・辛辣さでかたづけてしまうところもあります。フランス人のこの特色を、バルザックは立腹して居ります、立腹するバルザックを好しいと感じます。しかも彼は、その人間らしい立腹に足をとられて、自分を、折角怒ったのに、その甲斐のないようなところへもって行ってしまいましたが。
 この手紙はここで終りにいたしましょう、もう九日の午後よ。六、七、八と経ちました。たった一行の間に。今も亦一人です。アイロンがピシリピシリと微かに音をたてながら熱しています。わたしは、暑い日ざしを見ながら、あなたの血便はどうなっただろうと考えて居ります。アドソルビ
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