たいなものね。シェクスピアはそれからリア王をかき、コルデリアを描いたようなもので。もと[#「もと」に傍点]ね。プルタークについてはほんとうにそうだと思いました。人生経験というものは大したものね。そして、そういうものが読者に加るにつれて、一層味い深く読まれるというところに、作家というものの意味のふかさがあり、勉強のしどころがあります。大人の文学、というものは、房雄先生の定義するところより遙か遠い、質のちがったものです。俗人らしい厚顔さをますことではないわ。俗説をあれこれかき集めるのでもないわ。こうやって、暮していて、猶々仕事とは何か、ということについて会得いたします、そして、新鮮な情熱を覚えます。自分の人生が要約されてあることに歓喜を覚えます。仕事と妻の心と、主流は綯い合わされた只一筋のそれだけだというところは何と愉快でしょうね。この要約の豊富性については、よく表現しつくせない位のものね。芭蕉は一笠の境界ということを理想にしましたが、現代史の波瀾重畳の間で、よく要約された人生の道具をもって生きられるとしたらそれこそ人間万歳です。
 その至宝のような単純さ、明瞭さの殆ど古典的な美しさの中に
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