るのね、漱石なんかこれでカンカンになって、ロンドンで神経衰弱になったし、あれ丈の文学論もかきました。日本人はおもしろいわ、大抵の人が一番気の利いたことは自国語でしか云えないところに、お気の毒さまというところがあります、そしてくやしさが内攻して、見当ちがいの愛国熱でゲンコふりまわしたりします。(よくベルリンで博士の玉子たちがやったように)
 日本人と云えばパリで緑郎どうして居りましょう、ルアーブルからセーヌづたいにパリは五時間以内ではないでしょうか、英語が通じるようになって便利するのでしょうか、そうまで呑気ではないでしょうね、いくらヨーロッパの中だと云っても。フランスの中だと云っても。あの若い二人の生活もここで歴史的一転をいたしましょう。丈夫でいてくれと思います。
 ついでに、一寸家事的ノートつけ加えます。冬のジャケツ上下、シャツ、ズボン下、どてら二枚、今ごろ着る外出用の単衣(これは新しいもので御存じありません、大島の紺がすり)、先へよって、真夏着る麻など、開成山におきます。咲に、いつもお送りしている約十倍、保管たのんでおきました。現金です。いつでも、すぐ用に立つようにしてあります。これ
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