たら八時です。
 ことしの夏はね、自分がすこし丈夫になったら、悲観のことが出来ました。のみ[#「のみ」に傍点]問題です、ことしはうちにノミが多くて、わたしは特にたべてみて気に入られたと見え、全く赤坊のようにやられます。痛くちくりとさすノミで、其は小さい体をしていて猛烈なのです、だもんだからこの三四晩、安らかならずという仕儀です。眠くて床に入るのに、チクリと体がビクつく位やられるので、むっくり起き上り、永年愛用の水色エナメルはげかかりの円い首ふりスタンド(竹早町以来の)ふりかざして、文字どおりノミ取りまなこを見はってつかまえます、わたしの眼もその位になったとはお目出度いと、目白のお医者様は祝賀をのべて下さいました。ノミとりまなこを見はると、眠けさめてしまって過敏になって、体中チカチカあついようになってノミも食いあき、こちらも疲れると眠るのよ。何と癪でしょう。イマズふりまいてプンプン匂う中に眠るのにね。
 島田の二階のノミのひどさ。でも、あすこのは、土地柄とあきらめていましたから、ここの二階の奴ほどにくらしくはありませんでした。目にも止らないノミに向って、大憤慨の形相して突貫している滑稽な
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