もなければ信者によって語られて来ましたが、それでは決して十分でないわ。
 ムーア人の回教徒との接触を経験したジェスイットが、日本も東洋[#「東洋」に傍点]であるからと思ってふれて来たとき、そこには随分ムーアの回教徒とちがった要素があったでしょう、信長がそれを許し又禁止し、秀吉がゆるし又禁止した時代の起伏は、極めて興味があります。その頃スペインは、南米で、罪業ふかい血まみれの黄金をかき集めはじめていたのでしょう。
 歴史小説というものも、現代のレベルでは、この位のテーマをもつべきですね。「ピョートル大帝」にしろ、オランダの商業を或程度勉強しなくては書けなかったでしょう。現代史が十分かける力量をもって、歴史小説もかかれる筈だと思われます。ジェスイットの坊主の中にも、本当に宗教に献身した人々があります。こういう卓越した個性と宗団の矛盾、信長の禁圧の当然さと、逆に信仰せざるを得なかった武家時代の貴婦人のこころもちなどのあやは何と人間らしい姿でしょう。面白いことね。
 ピョートル大帝と云えばこの前一寸かいたかしら。レフ・トルストイが、ピョートル大帝を書こうとして遂にかけなかった、ということ。「戦
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