と、自然のこまかさにおどろかれますが、木の幹は決して人間の観念の中にある真直という真直さではないのね。いろいろな天候の圧力や風の角度に対し自身の活動のリズムの複雑さをみたすのに、それは何と微妙な線で美しく変化しているでしょう、そういう美しさと雪の美しさはやはり似合うでしょう?
 雪が冬の終りに降る頃は、天候も春のはじまりのひそめられた華やかさがつよくて。疲れること。
 風邪はおひきにならなくても、熱が出やしなかったかと思って。わたしは何となく二三日おとなしくてぽっとして暮して居ります。用事はどっさりあってね、金曜日から土、日と出つづけでしたが。用事というものは考えると妙ね、だってこころの何分の一かで果せるようなところもありますから。
 土曜はQのところへ行きました。この頃は可笑しいでしょう、本をかしてあげたらあのひとが又がしをして、かりた人がお礼にバタをくれるのですって。それが来たら知らせるからというわけで。行ったところ、バターは消しゴムほどあったわ。そして、文学の話はちょぼちょぼで、やりくり話、家の整理の話等々。今の人のこころもち生活の態度がわかって何だか感服してしまいました。そして、自分の机を思い、よむ本を思い、更に感服をふかめました。
 この間のお手紙で天気予報のことね、みんなによんできかせて大笑いいたしました。皆もお説は尤もだということでした、決して日づけまでをとは申しませんそうです。でもやはり天気予報は有益です。私の身辺のことを見たって。
 日曜日は寿の大岡山の室へやっと荷がはこべ八時ごろつみ出させ、ひるすぎ出かけ、夕飯を七輪の土がまでたいてやって、この三四日ぶりではじめて御飯いっぱいたべさせ大安心いたしました。ホテルでも、朝小さい円い型にはめた、(よくジェリーを丸くしていたでしょう? あれ)――のおかゆ一つ。実なしのみそ汁、いわし一尾ぐらい。晩は、用の都合でぬきになった日があった由。この節の旅館暮しはおそろしいばかりです。ですから、ともかく一ヵ月十二円で、おカマで御飯たいて、おみおつけつくってたっぷりたべたら、悲しくなったというの全くよ。おっかさんの顔みてから子供がワーと泣くと同じです。
 これで寿も上京して安心してね起きするところ出来たから私も安らかとなりました。従弟が寿と食事してひどさにおどろいて話しているのをコタツでききながら、フーフーふいてあったかいものをたべているんだもの、わたしはそういうのは楽でないのですから。よかったわ、もうこの次の第三次の本引越しについてはもうわたしも御免を蒙ります、二度のことでわたしの分けてやれるものは皆わけてしまいましたしね。きのうは行きたくなくて、きょうも疲れがありますが、でも本当によかったわ。やさしさ、親切は心の活々とした、少くとも想像力のある人間でなくてはもてないわ。思いやりなんて、わが身の痛さではないのですものね。
 川越の先の部屋を二十日すぎというから多分木曜頃見にゆきます。そして、又こちらへすこしうつしておいて、それからやはり余り予定狂わさずに島田へ行ってしまいましょう。五月頃東京にいないとこまることになるかもしれないから(御託宣めいているかしら)うちへ子供の洋裁や私のもんぺ縫いに来てくれる洋絵勉強の娘さんが、倉敷の大原コレクションを見たがっているし、わたしはまだ一度も見たことがないから、行きに倉敷でおりて、それを見がてら少し休み、あとは近いから娘さんはそこから戻り私はひとりでゆくということにいたしましょう、いい都合でしょう? おべん当二度分もってね、よく研究してすいた汽車を選んで。荷物を少くしてね。かえりは一人なら、山陰をまわった方がこまないからと思って居ります、東海道ではこの節はビルマから一直線だなんていう勢ですもの、こむわけよ。多賀子一緒になど思ったけれど、ここの家で気がねしたって無意味ですし、其に時期もわるく、やはりかえりはひとりでしょう。さもなければ一寸送ってもらうのだが、その一寸が一寸でなくて。マア、それはそのときのこととしてやはり三月の二十日までに立ちましょう、お手紙のついでによく云ってあげておいて下さいまし。
 ものがなくて、お土産が思うようにととのわずわたしは気にしていること。見かけは大した変りないが、実力は大分まだ低いから、半病人のつもりで見ていて下さるよう、眼が十分でない[自注6]ことなど。
 今度はこれまでとちがって小さい子が二人いて、どうしてもお守りが要ります。体が十分でないと子供の守は疲労ひどく、抱くという何でもないこともこたえるのよ。自分でうまく調節いたしますが、そのことに直接ふれないで、一般的に半病人ということを憶えていて下さるようお願いいたします。自分からも申しますが、わたしがいて、お母さんだけによろしくと申してもいられないというわけ
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