ら、親子二番目の子――熊《クマ》・クリで遊んで居ります、クリは雄らしく、珍しいこと。チンは女権拡張で女ばかり生んでいましたが。クリを寿つれて行くのかしら。
 きょうの宿題はすんだから、予定通り穴のあいたスリ鉢に、つる菜もまきましたから、あとは本よみでいいのよ。あ、まだ一つある。二階の大掃除。これは、疲れるから夕方にしましょう、ねえ。かまやしないわ、わたしたちはここにいて、楓の若葉眺めているのですもの、ここもテーブルの上は紙や帳面やでかなりの有様ではありますが、こういうちらかりには性格があり、生活が現れていて、却って落付けるようなものです。
 こういう暮しをしてみて、段々わかり、この先、もし国が引こして、わたし一人ここのどこかの隅で暮すようになったとして、十分やって行ける自信がつきました。仕事が期限つきである生活の心持と、そうでないとは、こうも違うものでしょうか。その点わたしは例外の生活習慣をもって十八歳から暮して来たのであったと思います。
 一層生活をたのしみます、この調子で見ると、私はもう少し経ったら、本気で仕事はじめて、こういう紙の上だけでない二人遊びの時を十分に、十分にしんからたのしく暮す丈仕事しておかなくてはならないと思います。そして、仕事する生活のためには、こういうのはいけません、却って一人がいいわ。朝おきぬけから、おつき合い[#「おつき合い」に傍点]してはじまるのでは仕事は出来ません。生活のいろいろの形、いろいろの調子を、経験するというのは、大したことね、それは人間しかしないことです、それが自主の判断によってされるのは。
 国は、ああいう人ですから、こうやってやってみて、調子がいいと、それをこちらにかまわずひっぱろうとする傾でね。国府津へ私を行かそうとして力説しますが、其は駄目。何のために私はあすこで暮す必要があるでしょう。汽車の切符は申告、途中二時間半往復、では一日仕事、こっちに泊るところもなくて、どうしてやれるでしょう。もし国が行くなら(経済上の理由、都民税が大したもので、従って公債その他瞠目的です)わたしは蔵前の六畳、四半へだって籠城いたします、そして一人で犬の仔なんかとやるわ、そして仕事して。それも亦たのしいでしょうと思います、こういう暮しが始ってから却って生活は自分のものとなり、のどかさも生じ、どんな小さい形でも不便中の便を見出してやれるようになりました、体もいくらかよくなって来ているのでしょうね、頭が動くところを見ると。こうして、そろそろと焦らないで、仕事が出来るようになるでしょう。
 そう云えばこの間原稿整理していて、祝い日のためにの詩ね、あれをくりかえしよみました、びっくりいたしました。あれは本当に、半ば盲の妻の作品ですね、そのひたすらなところ、思いこんだ調子、確乎さ、立派なところがなくはないが、何と流動性がないでしょう、可哀そうな一心さがあります、健康というものをおそろしく感じました。哀れと思っておよみ下すったのが、今になって自分でわかります、あのときは精一杯でそれは分りませんでしたが。ああいう凝りかたが直ったら、現金ね、わたしはもとの散文家になってしまって、しかし、目出度しです。あの詩はレンブラントの絵のような重い明暗があり、赤い一点の色彩が添えられて居ります。それにしても、本当に何と眼が見えないという感じ、手さぐりの感じ、周囲というもののない感じでしょう。よい記念品だと思います、あんなにわたしは苦しくて、見えなくて、じっと動けなかったのね、可哀想に。
 然し今は、青っぽい筒袖のセルを着て、紺の大前かけかけて、青葉の色よりすこし水色っぽい更紗の布で頭包んで、とにかく小さいシャベルふるって土も掬って居るのですもの、えらい進歩であり、生きる力は大したものだと思います。そう思うにつれ、こうして自分が生き、癒りして来た力はどこから湧いているかと考えざるを得ません、わが命の源《みなもと》は、と、おどろきを新たにいたします、アダムの肋《あばら》から生れたなんて、西洋人も想像力が足りないことね。リルケは、それを疑問の詩をかいて居ります。もし肋なら、こんなに生きて、こんなにあつくて、こんなに欲ばりの生きてとなったイヴをもう二度と横はらへしまってやることなんか出来ず、あわれイヴは、のたれ死によ、ね。横はらを枕にさせてやれるのが精々で。命の源は、一つのいのちのその中に、まるっこで在るのです。だから大変よ。どうちぎることも、便利なようにちょん切ることも出来っこありません。
 もう十一時よ。寿どうしたのでしょう、あの、うらぶれ部屋で工合でもわるくしているのじゃないかしら。
 ワンワン吠えるのでガラスのところから見たら白いブラウスが見えました、まあよかった、待人来るです。
 久しぶりでゆっくりおひるを食べさせて、今そこの
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