もう書きものはおやめでしょうし。手がつめたくて書きにくいでしょう? 森長さんのところへ電話したら、二年生(?)の男の子が出て、ア、ア、モシ、と云いました、笑えました。のちに又かけましょう、ねる前によ、勿論、御安心下さい。
 今年の正月には恒例の寄植の鉢もございません。何か、花と云えないようなカサカサのものがちょぼっとありますが。
 だからことしはいい花を上げようと考案中です。題だけはもう読みました。指頭花というのよ、ちょっと珍しい題でしょう、われら愛誦詩の作者のものですから、よく読んだら、きっと素晴らしい迫力があって、年頭のうたにふさわしいものでしょうと思います。いずれ御披露いたします。この詩の連作に、雪は花びらに溶けて、というのもございます、御存じでしょう。再び冬はめぐり来ぬ、あはれ、わが春ある冬ぞめぐり来ぬ、といううたい出しです。薄くれなゐの花びらに、ふる初雪のさやけさよ、とつづいていたの、ね、では又。

 十二月二十六日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

 十二月二十六日
 まだ午後二時だのに、日ざしは少し赤っぽくなって斜光の工合がいかにも真冬らしゅうございます。きょうはそれでもいくらか寒気がゆるやかです、きのうも、ね。三四日前何と冷えたでしょう。風邪をお引きにならなくて何よりです。わたしの風邪も、とつおいつ式ね、わるくはなりませんが。夜中おきますからいけないのでしょう。おまけにすぐおきていいように着物を大体着たままでしょう、なおいけないのよ。大いに心がけて、日光によくほした下着によく着換え、なろうことなら体も日光浴させなくてはいけまいと思って居りますが、ヤレやっと、二階へ上って、キモノぬいで、おひさまこんにちは、になると庭の方でチウジョさんと独特なせかせか呼声が起って、それは、何や彼やの配給ですよというわけです。ハイ、とそれから又ヤレコレと着て、かけ出して一度でこりてしまったわ。何しろ此頃睡眠不足がちですから女の人のチユジョさんも益※[#二の字点、1−2−22]鋭角の方向を辿る次第です。自分は出来るだけのびやかさを失わず、ユーモアを失わず柔かくやりたいと思います。余りどこへ行ってもひどいので、ユーモアもいいけれども、こちらがユーモラスに感じても相手はそれどころかと力んでいると、折角の罪ない高笑いも云いわけをする必要を生じたりしてね、自分のガタク
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