相談して、来て貰って一緒にでもいたしましょう。一人も随分ひどいけれ共、国がこういう調子でいて、一日のうちほんの僅か何かして、あとは何となしサービスをしなくてはならなくていられるのもわたしとしては切ないところもあります。ブランカの気もちは、スパルタ人の方形陣に似ていてね、かっちりと必要と目的に適した日常形態にととのえて、キチンと出かけ、手紙をかき、すこしは本もよみ、そういう風にやりたいの。ところが目下のところ、何と云うか不決断で無方策な引越し最中とでもいうのか、国は服装だけは夜昼ともにいかめしく、そしてコタツに入って居ねむりしたり、急に働いたり。めいめい癖があります。
日本人は神経質だし、建築が一つの火の玉にも落付かせておかなく出来ているし、なかなかもってビジネス・アズ・ユージュアルとは行きそうもないことね。伯林《ベルリン》の各家は地下室を居間として六七時間平気でガンばりつづけて来ているそうですが、こちらでは火消仕事が各人の責任ですから、消耗は大でしょう。うちの壕が、雨の日もなかでは濡れなく出来ているという丈もよほどの見つけものと申す水準ですから。この頃は段々寝起きが上手になって、用がなければすぐ寝てしまいますから、よほど大丈夫よ、御安心下さい。夜も早ね。大抵九時ごろ(わたし一人)もうすこし早くてもいいのです。その代り手紙さえ書く時間がなくなります。そちらへ出かける朝、暁に起されると、帰ってから眠らなくてはもたなくて、眠っている間に午後の大半はすぎてしまったり。わたしの器用な眠り術は、次第に効力を発揮して来るらしうございます。
ビジネス・アズ・ユージュアルということをもうすこし違った云い方で表現すると、段々毎日の生活が、アンユージュアル・イズ・ユージュアル(非常が常住)ということになって来て、そこではじめて悠々さが出来るのね。戦場的ゆとりと申しましょうか。思えばブランカも、そういう状況で生活することには既に幾分鍛練があるわけです。でも、わたしのたちは、腕力的肉体運動的非常には不向きで、精神的な同様事情に耐えるよりも不[#「不」に「ママ」の注記]手であるのは欠点ね。スポーツの訓練がないからよ。静坐的な成長をして。スポーツ精神はあるけれ共、筋だの腱だのが至って大したことなくて残念ね。
八日のお手紙、心からありがとう。あすこには高い空と爽やかな風と、すこやかな人間の息
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