活は、土地ものの生活とのちがいがひどくてね。
 多賀ちゃんのことは、現にもうこうやって一人になってしまって居りますし、今度は一人も亦よしらしいからどうか御心配なく。
 十七日がしずかだったのをたまものと表現したからと云って、あながち、タマモノと思っているのでもないのよ、ハハンと笑って、わたしも一本参ったと申しましょう。でも、あなたねえ、何て、あなたでしょう、その点では痛快のようなものですけれど。
 クラウゼヴィッツは市ヶ谷の頃よみました、面白く、感服もして。そして、忘れもしたというのは、きまりがわるいわね。
 十一月一日のお手紙大変早く二日に頂きました。
 今年はたしかに寒さが早うございます、この秋は秋刀魚も焼かず冬となる、よ。秋刀魚なんて、ほんとにどこへ行ったでしょう、うちの柿はもげましたが。
 このお手紙にはブランカのバタツキ占星術克服のために、よめとおさしずがあり、一般的に、勉強を怠らない精神がどんなに大切なものかということは、十七日のあとの手紙に書いたとおりの実感です。あわただしければ遑しいほど着実な勉強が必要です。そしてそのことについてブランカは現時代人として最も貴重な教育を受けつつあると感じて居ります。これらのことについては、一まとめにして、別にかきます、あれこれの間に書くにしては余り貴いことだから。抒情的に云えば、わたしのこころに鳴るほめ歌の物語ですが、それは天上天下にひろがっていて、最も骨格的なものに通じるのよ(ブランカ流にしろ)ですから別に。
『名将言行録』について[#「について」に傍点]何か筋の通ったことをかくことは、容易でないでしょう、そういうのではないのです、あの中に語られている人、その逸話にあらわれている人間としての質量などについて一寸かきたいのよ、そういうものならばそういい加減な饒舌にもなるまいと思います。作家論の延長として、作家以外の人物について語ることもすこしは私の可能のうちに入って来ているだろうと思います(自分の成長との関係から見て)
「綿入れ」とかっこつきでほめて下さるからうれしさひとしおね。笑い話です。そちらからの帰り、ハタト当惑してね、送った荷物は着かないしいかにせんとしおしお日の出町の停留場へ辿っていたら天来の霊感で、ホラあのこと! と思い当り、それから大童でもんぺはいて熊の子のように着物と綿とのぐるりを這いまわって、やがて
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