しれませんが、でもニンニク位プンプンしても結構よ、いくらプンプンしても結構よ。
 ニンニク人種は、粘りつよさで大したものなのですものね。フランス料理には殆ど大抵小量のニンニクが入ります。味の奥行きが出て美味しくなりますから。野菜や獣肉が。あの素晴らしい支那人の料理法は勿論のこと。
 すっかり涼しくなって、夜は蚊帖をなくいたしました。夜、床をのべて、季節のうつり変りの風情のふかいとき。それは感じふかい一ときです。わたしは、くっきりとその風情を感じとり、そういうときわたしたちがその感じを表現するしかたを思います。それは、いつもたっぷり真率に表現され、自然の愛嬌と優美にみちて居ます。初めてほのぼのと灯かげの上に蚊帖をつったとき。それから一昨夜のように、どこか澄んだ秋の灯の下で、初めて蚊帳のない床をのべるとき。声のきこえない、影の一つしかない部屋の中に、物語は多うございます。深く深く重った影は一つにしか映らないということを、この壁は知っているだろうか。壁は元来何となしそれほど賢そうには見えないものなのね。
 きょう、朝五時から七時まで防空演習がありました。午後からは、近所の防空壕の泥運びです。わたしはそういう働きはすこし無理だから、泊っている事務所の若い人に出てもらいました。もう九年ほどつとめている女の子です、営養士の資格をとってね、それで就職したい考えです。あっさりした気質のいい子です。
 一昨年わたしがひっくるかえったときいたたけ、という女が、今熊谷在で産業組合の事務員をして居ります、それがきのう仲間三人もつれて来て、よっての話に、女の技術員になれとすすめられていますが、どうしましょう、というわけなの。農業技術員なのです、肥料配合や何かを指導する。女学校を出たりこういう程度の若い女が一ヵ月講習をうけて、技術員となり、農業指導が出来るものなのでしょうか。それほど、日本の農民は知らないことばっかりなのでしょうか。曰く、「肥料なんか今まで無駄にまいて居たんですね、今のだけでちゃんと出来て、増産して居りますもの」わたしが、集約農業の特徴を話したり質のことを話したりしていると、もうちゃんと聴いてはいなくて文鳥を眺めているのよ。所謂生活力と粗雑さ、粗雑なまま通ることからの自信にうたれました。
 国府津の家が、ああいう役所になって留守番がいるということになり、急に、これ迄あなたのもの
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