いでしょう。
 十八日のお手紙ありがとう。金曜日に頂いて居りました。クライフはすぐ送りました、訳が下手で、座談的筆致の味が、一種ごたついた印象を与える傾きです。『風と共に』第二巻、『結核の本質』という本一緒にお送りいたします、第三巻もどうやら手に入りそうです、二、三とも借りものよ。『結核の本質』は弘文堂の本より更に初歩向きで本としてお役に立とうと思えませんが、著者のものの話しかた従って気質がいくらか御推察になれるだろうと思って。著者については明日お話しいたします。
『時局情報』がそちらへ直接だといいこと。それのために、わたしは顔も見たくないようないやな本屋の店へよります。その本屋は全く本やにあるまじき根性で、その水っぽい薄情ぶりはホトホトです。本を買う、という人間の扱いかたを知らないのよ、豊山中学の子供ばっかり対手にしているせいでしょうか。どうかお願いいたします。
 市民文学について、全くそう思います、そして、こまかく見ると、その細目の追加においてさえも、其の限界内での豊富さを十分もち得ないまま、萎縮の一路を辿っているようです。鴎外だの一葉だののありがたがりぶりにそれがよく示されています。
 トルストイ、バルザックに連関して「風と共に」のことで、興味ある感想を与えられました、第二巻をよんでいるうちに。でも、それは、あなたもお読みになってから、ね。その方が面白いから。文学作品の雄大さの意味とか、作家の力量とか、いろいろそういうようなことの類ですが。
 お砂糖のこと、どうも呉々もありがとう。釘のことは知りませんでした。わたしだってまさかカンに水を入れはしなかったのよ。カンを水につけたら、つぎめから水が入って来た[#「水が入って来た」に傍点]のよ。一寸したちがいですが、女一人が白痴かそうでないかの境めに立つわけになりますから、御良人としても明瞭に御承知なさりたいでしょうと思って。これをよんでつくづく感服いたしました。人間の頭脳というものは、何と大したものでしょう、このお砂糖と釘の注意と、壮大な構築の論文作制とを、一つの黒い髪の下の生命が行うということを見くらべて、驚歎しよろこばずにいられません。お砂糖の手当法をもうこれで一生忘れっこはないでしょう。
 ニンニク球は、おなかの為丈でも是非召上るねうちがあります。思うよりきくものよ。冬は是非ともね。夏は汗にまじって匂がいやかも
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