もしれません。寿が一つつれてゆくそうですが。では一寸御免なさい。玉ネギをジリジリとやっておひるにします。
 大した長ひるで、ここの間に一日半経ちました。仔犬は一匹貰ってくれるそうです、昨夜はおつかれでしたろう。どうもいろいろありがとう。(つまりもうけさは十五日なのよ)詳細な準備でおつかれになったことと思います。又すぐ書きますから、この前便[#「前便」に傍点]はここまででおしまいね、お疲れをお大切に。ニンニクをよく召上れ、食事の間にのみこむと楽ですが、どうかしら。ニンニクは本当によいから。

 九月二十日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

 九月十八日(月)
 おひるを、いつかお話したパフパフ(覚えていらっしゃる?)ですまして、『風に散りぬ』第二巻をよんで居りました。二時までそうしていて、あと二階で荷物ごしらえに働くプランで。ところが一寸かきたくなりました。
 けさ運送やが来て、成城への荷物出しました。こんどのには、竹早町のおばあさん[自注12]のくれた机、白木の座右においていた書類入箱、低い茶色の折りたためる本棚、字引台、チャブ台、等。これでもう三回目なの。はじめリヤカー一台、二度目三台、今回、きょうあす。明日は、タンス(引出しの一つこわれたの)をやります。それと台所用品と。このきょう明日の荷物は、前には考えていなかった分ですが、こんどはともかくここからどけておいて見る気になったものたちです。長火鉢はやめます。ごく実用的でもないし。今は成城まで四十円平均よ、リヤカー一台が。
 東京周辺の街道をゆく荷物車はどの位夥しいでしょう、都電の停留場に待っている間だけでも、三四台荷物をつんだ車を見ます。わたしの一見貧弱な何の奇もない荷物もその埃っぽい列の一つに加って、カタカタと行くのですが、その荷物たちは、自分に負わされている不思議に建設的な光りを知っているでしょうか、荷物が繩でくくられゆられてゆくとき其々の荷主のこころをつたえて鳴るものとしたら、今の東京のぐるりの街道ばたの人々はああして暮していられないでしょうね、そして、わたしの荷物はどんなに鳴るだろうと考えると、笑えて来ます。アンポン、ブランカ[自注13] ブランカ アンポン。ウレシイアンポン と鳴ることよ きっと。
 きょう、これから二階で、二通りのこまごました荷のよりわけをするわけです、自分と一緒に田舎へ
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