の反面には、そのものの生死にかかわる一切が関係して来るということなのね。そう思って、成程とも思います。
 四匹は白黒、チョンビリ茶。丈夫に育つけれども又この間、妙なことがありました。わたしがそちらへ行っていた間、茶色の野良犬が来て若い母なるチビと大噛合いをやったのですって。それは雄だったのだって。狂犬ではなかったかと心配していたら、次の朝、チビは全くソワソワして遠吠えをしては縁の下に入るのよ。丁度ふとんの用意していて、使わない綿を、奥の室のテーブルの下へ入れたら、チビはいつの間にか、その綿の奥へかがまりこんで、呼ぶと、尻尾をふる音ばかりパタリパタリしてどうしても出て来ません。わたしの家畜衛生学によると、これは狂犬のはじまりの動作なのよ。不安になる、遠吠えをする、暗いところに入って出て来ない。さてさて困ったよ、とチビに向って申しました。到頭はじまったかい。仕方がないから、まだ、わたしの声が分って尾をふるうちに、ともかくつないでしまおうと、首わをつかまえて綿のうしろからひっぱり出して(腰を、おとしてズルズル出て来るのですもの、誰か来て! と呼びたくなったわ)北側の光線のしずかな側の柱につなぎました。仔入りの箱もそっちへ、えっちらおっちらもって行ったの。そうしたら、段々鳴かなくなって、やがて眠りました、夜になってからは大分普通になって、もう今は無事です。人間の脳膜炎と同じと思って光線の少い側にやって、大成功でした。お産して間もないのに大活躍して、逆上してしまったのでしょうね。神経がおそろしく亢奮して、光線もよその犬も人間の子供も、すべて癪にさわったのね、綿のうしろの暗闇で、チビの眼は、豹《ヒョー》のように炯々たる緑色に燃えて見えました、こわくて同時に素晴らしい見ものでした。ただの雌犬とは迚も思えない燃え立ちかたでした。わたしの眼もソンナニ光ッタラ面白イケレド。燐光のようよ。
 わたしの悲しみは、育ちつつある四匹の仔犬の将来です。犬を飼うということは、それ丈人間が食べかたをへらしていなければならない、ということなのですから、困って居ります。
 おひるを食べないうちに、きっとお客が来てしまうのでしょう、歓迎でもないわ、率直に。「お話中」なのに、ね。ああでもいいことがある、その女の人に、きいて見ましょう、あなたのところで仔犬ほしくないかしら、と。郊外住居だからもしかしたらいいか
前へ 次へ
全179ページ中128ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング