うは暖い日でした。きっと、ホホウ暖いねとお思いになったでしょう、前日は夕方一寸みぞれが降って、雪かと思ったのでしたが。特別暖い日になりましたね。
 そして、又きのうは、何となし可笑しかった日よ。先ず朝九時半から防空演習でした。私が家中の総大将という憫然なことになってしまって、其でもどうやら無事終了。わたしは隣組の救護班です。国と。まだ働けないから。うちにはタンカもありますから。
 午前中床に入るのが普通なのでへたへた。其でも暖かいし折角の二十三日がモンペで終るのも興ないし、そこでハガキに云っていた「ドン・キホーテ」「プルターク」のある叢書を買おう、こっちにある売るのとさしひきしたら、ええいいわ、たまに自分を優待したって、ねえと、珍しくコートなしという風でフラリと出かけました。いそいそしてよ。私たちで買いましょう、そう思って。神田の巖松堂の二三軒先なの。金曜日にはお話していた通り帰りによって、『外交時報』かったのよ、一月十五日発行というのを。そして家へかえって、「ヨクヨク見たらば」とまるで手毬唄のようですが、よくよく見たら其は十[#「十」に傍点]一月十五日なの。どっさりあるのですもの、一月と思ったわ、よく見えなかったのね。大笑いして其用もかねてです。一月号はギリギリの月末か二月に入る由。よく月おくれに女の雑誌が出て、気をもんだこと思い出し、感想多くありました。それから二三軒先へ辿りついて店へ入ったら在る、ある、ある、金曜日に見たところに積んであります。札が下っているのを、今度は何しろ買おうというのだから、念を入れて見たら、三十冊揃いで五十六円ばかりと見えたのに、どうでしょう、ここでも一がぬけていたのよ、一は百なのよ、つまり百五十六円だったという次第です。びっくり敗亡。内心苦笑してしまいました。この訳本はいいのだけれども今はそれだけ出しにくいわ。売っても惜しくない本をパチパチと弾いたがやはり一が邪魔です。バルザックがこれ丈分るようになったと思うと、「ドン・キホーテ」がよみたいのですもの。暫く佇んで首をかしげていたけれど、思いあきらめて店を出て、其でも二十三日だからと、江戸時代の文化を書物から見た研究や、女流文学の古典のありふれた資料ですが二三冊買ってかえりました。ああ、こうかいているうち又未練が出て来たこと。欲しいことね。でもと考え直すと、あの三十冊の中でオースティンの
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