いるから、なおのこと空気が調和していて。
 ふとん類についてわたしがどんなにクヨクヨ思いなやんでいるかお察しがつくでしょうか。只今世間に綿はないのよ。ふとん側の布地も買えません。今のを大切に使うので、それはいいが、どこへないないちゃんちゃん、としておいたら、無事に秋あなたをくるむことが出来るのかと、それについての思案でとつおいつです。何しろ八月と九月殆ど一杯という時間にはさまっていて、それは只ものでない時間ですもの。縫うことは早くしておかなければだめよ。だってクマさん、ちょいと自信ありげに口を尖らして、ああやって鋏鳴らしているのも、つまりは天から降って来るのが雹どまりのうちですからね。熱いこわいものが一度落ちたら、さっさとトランクもって桐生へかえってしまうでしょう。ですから早く縫う必要があるのよ。そして出来たらどこにおきましょうね。せめて鷺の宮? ここは駄目よ。都外へ出しては、輸送が全く大したことになってしまうでしょうしね。開成山へ送ろうかと思って居りましたがどうかしら。御考えおしらせ下さい。
 それから草履の件。何となく笑ってしまいました。だって。そちらへ送ってよい、という場合は、いつも、何によらず入手困難の結果でしょう。もう大体世間にそんなものはない、という時なのよ。すべてがそうよ。草履というもの、男の草履、麻うら[#「麻うら」に傍点]という風なものは、既に辞典ものです。カステーラとともに。たまにあるのは、ひどい、すぐ緒の切れる代用品です、それも参考のためよいかもしれないけれど、お気の毒です。わたしが、そちら用に買ってもっているのはどうでしょうね。緒に一本細い赤が入っているが。さもなければ昔、あなたが足をお挫きになったとき一寸はいていらしたのは? ああいうのは、本当の草履は、勿体ないかしら? 素足でじき黒くなってしまうしね。又キョロキョロして歩いて見ましょう。犬も歩けば、かもしれないから。女の下駄というものもないのよ。田舎にたのんでもないものとなりました。名将言行録はもう、腸の本と一緒にお送りいたしました。風に散りぬ、は手に入ったらお送りいたしましょう。怒りの葡萄下巻も、もしかしたらあるのよ。たのしみです。借りものですが。
 隆ちゃんからのたよりよかったことね。あの言い表しかた「天地の回転は」というの、よく兄さんに似たところがあります。何というか、その回転の大き
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