ンという腸内の殺菌吸着剤が三共にあるかしらとも考えて居ります。こうやっていてさえも、だるいのに、と思って居ります。

 七月十八日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

 七月十五日
 暑い日でした。きのうも、ね。おなかの工合わるく、食事がちゃんとしないときにこの暑気では、さぞさぞお疲れのことでしょうと思います。わたしなんかメタボリンの注射していて、この位だのに。やっともっているという程度ですから。ことしの夏は誰にとってもしのぎがたいでしょうが、おなかのわるいのは実にいけません。苦しさが夏向きでないのに、大体いつも夏ね、何と残念でしょう。どうか呉々お大事に。いろんなことをおまかせして[#「おまかせして」に傍点]安心していられる細君は仕合せな者と云うべきでしょうが、病気まで病気している人におまかせ[#「おまかせ」に傍点]しなければならないとなると妙な工合よ、ひどく妙な工合よ。奇妙な疲れかたをいたします。
 十二日づけのお手紙、金曜日頂きました。家のこと、一寸申しあげたように、気がねなんかする理由はありません。ただわたしとすると、いかにもそちらが御苦労さまで、はい、と自分だけ腰が上らないわけだったのです。田舎へなんかは、ね。国男さんは、東京の郊外なんか意味ない、自分は開成山へ行っちゃう、と云って居りましたから。これからの生活は大したものですから、新しくわたし一人でどこかで生活こしらえることなんか迚も無理です。疎開者向ねだんが発生するのは世界共通らしくて。食糧の問題も極めて深刻です。〔中略〕「風に散りぬ」の中の一八六三年頃、あれね。
 国も家のことについての考えは、グラグラして居ります。フランクに話さない自分の都合[#「都合」に傍点]があったり、心ひそかに描く計画があったりなのでしょうね。ですからアイマイです。わたしがいなくては、自分も困るような話してみたり、わたしはさっさと自分で疎開すべきで、僕はどうにでもやるサ、と云うことになったり。そのどうにでもやるサの内容がタンゲイすべからずでね。だからああそうかと安心しきらないのよ。〔中略〕
 きょうは十八日になりました。暑いことね、しかし風がいくらか通るのでしのげます。そちらいかがでしょうか。おなかの工合はすこしいいでしょうかしら。この間珍しくカンカンにかかって計ってみたら十七貫八百(きもの、下駄ごと)ありました。一
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