囲とも自然にとけ合ってしまうのね、先生もいい先生ですって。何よりです。東京のこの頃の暮しの空気に追われていない先生の方が、子供を育てる、という仕事に気がまとまるらしいのね。こういう時勢の力で、却って太郎や健坊が田舎で日にやけ、生活能力がひろがって育つとすれバ、一つの大きい幸です。わたしが、こんな台所仕事で、体力は、いくらかましになったように。
太郎はどうしても九日か十日に帰らなくてはなりません。国府津の家の片づけその他で咲はもうすこしいなくてはならないので、もしお許しが出たら、わたしが太郎を送って行って、一日二日休んで、山々も眺めて、そして帰って来ようかと思います。親たちはそうすると好都合だし、トラックを利用出来るという、この際稀有な便利にあずかれます。わたしはわたしで、太郎と自分のチッキで荷物をすこしまとめてあちらに送れるということがあり、国も息子のお伴をわたしがして、おかみさんのこしてくれれば、田端まで荷運びもしてくれるでしょう、(荷運びもなかなかの問題ですから)急な思いつきですが、みんな好都合ということだし、わたしははりきりです。そちらに御不便でなければうれしいと思うけれども。いかがでしょうね、行けたら大いに能率的なのだけれど。いずれ明日御相談いたします。
この頃暑くなって、わたしは一人で万端やるのが、すこし重荷です、そちらに行くと、歯医者、お使い。その上での台所ですから。歯をわるくして今休んでいる女中さんが、もう一ヵ月もしたら来そうで、そうしたら汗の出る間大助りです。夏へばっては仕方がないから。そうすれば、仲々うまく行くということになるでしょう。
薬が買いにくくて困ったこと。全く困りです、ヴィタスなど島田へ伺って見ようかしら。
きょうは咲がいるので、わたしは床から体がはがれなくて。体じゅうはれたようにギゴチなくなって、幾度も幾度も寝つぎして十五時間ばかりねました、ひどいでしょう? ゆうべ九時に床へ入ったのよ。その代り休まってかんしゃくも起りません。熱はいかがでしょう、お大切に。やはり出ましたろうか。
六月八日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
六月七日夜
もうすっかり夏になりました、きょうなど、暑かったこと。暑いときに歯のジージーガリガリは一層汗が出ます。きょう、お会いしたのが五時だったのね。それから歯へまわり、かえって夕飯終っ
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