力なしで、ここに居すわりです。寿江子は来週海岸にゆきます。彼女は大変緊張して暮しているから却って私ものんびりするかもしれません、では又ね。

 五月八日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(西芳寺の写真絵はがき)〕

 きょうは七十九度ありました。暑くて苦しいほどだから、セルが未着でおこまりでしょうと思います。何とガタガタな一日だったでしょう。咲枝が出京して午後の短い時間に思いもかけず見つかった乳母をきめたりして四時すぎ嵐のひくように太郎をつれて行きました。私は半分ボーとして机のところで息を入れているところ。この細かい字は何とかいてあるのでしょうね。

 五月九日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(庫田※[#「綴−糸」、第4水準2−3−63]「松林」の絵はがき)〕

 きょうは八十一度になりました。五月初旬にこんな暑さということがあったでしょうか。明日は月曜日で出かけるから、せめて少しは涼しくなれと思って居ります、いそぎ紺ガスリお送りします。
 この松は不自然と皆が云うが、私には昔の野原の海辺へ出る手前の道が思い出されます、きっとあなたもそうでしょう? 木の枝に蛇を下げた男の子がこん
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