な松の間の道を歩いていました。

 五月九日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(石井柏亭筆「佐野瀑図」の絵はがき)〕

 五月九日
『万葉秀歌』はもう夙《とっく》についていなければならないのに、うちにゴロゴロしていて本当に御免下さい。上巻はいいのだが下巻にしるししてしまって消してからでなくては駄目でついのびてしまいました。やっと人手がすこし出来、これからは何となし少し楽になるでしょう。この頃の生活から、私は又先頃は知らなかった修業をして面白く感じることが多くあります。働いたことのない人々の人生とは何と嵩ばっているのでしょうね。

 五月十五日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

 五月十五日
 十日づけのお手紙十三日(木)頂きました。くたびれて、クタクタになってかえって来てお茶を呑もうとしてサイドボードのところを見たら、ちゃんとたてかけてありました。思わずこれはいい、これはいい、と申しました。いつもかえって来るときはペンさんの腕に半分ぶら下りよ。そしてお茶をのみパンをがつがつとたべて、二階へ上り坐布団の上に毛布をかけてゴロリとして夕飯までうとうととします。そうするとすっか
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