刺戟で仕事して来た習慣への痛烈な報復がひそんでいます。
 どんな人も従来の1/6ぐらいの収入でしょう。プルタークはもう忘れています。クレオパトラの引力史[#「引力史」に傍点]という表現は笑えました。ショウは利口なようで浅薄な爺さんね。クレオパトラの鼻がもうどれだけ低かったら世界史は変ったと云って、どんな猪口才にも記憶されましたが、クレオパトラがそれをきいたら、ジロリとショウに流眄をくれてニヤリとして黙っているでしょう。鼻の高さひくさぐらいクレオパトラの本体に何のかかわりがあるでしょう。彼女はおそらく女性中の女性だったのです。ナイルをみなぎらす太陽にはぐくまれ、あたためられ、そしてそれを装飾して表現する立場をもっていたのです。装飾に眩惑されるぐらい英雄たちは或面魯鈍であり、自然の魅力に抵抗しかねたほど素朴でもあったわけでしょう。それにあの連中はみんな派手ずきな連中だったからね。どんな時代にも派手好きな人間というものの共通に担うめぐり合せはあるものです、プルターク先生はそこ迄見とおしたでしょうか。随分変転を重ねて其は現われる、例えばレオン先生の晩年のなりゆきの如く。
 私は目下のところは余
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