めは見当りませんでした。そちらへ差入れの花も払底な時だから、きっとそういうどちらかと云うと贅沢な美観は街からもかくれているのでしょう。
でも、どこかでそれはやはり美しく立派で、蕾から花と開き又新らしく萌えたつ豊かな循環を営んでいるにちがいありません。私は全く花や木がすきよ。本当にすきよ。瀟洒《しょうしゃ》としてしかもつきぬしおり[#「しおり」に傍点]のある若木の姿など、新緑など、その茂みの中に顔を埋めたいと思います。今うちの門から玄関にゆく間のあの細い道は溢れる緑と白い花です。どうだん[#「どうだん」に傍点]という木は今頃若葉と白い鈴のような花をいっぱいにつけます。樹の美しさを話すのも久しぶりのように思われます。
本と足袋明日お送りします。
昨夜ふと気になったらえらく心配になりましたが、あなたの冬羽織、下着、どてら、毛のジャケツ一組等はどこにあるでしょう。まだお下げにならなかったの? この間はボーとしていて冬の着物一つもらってかえったけれども、考えてみると羽織その他大事なものどもは、どうなっているかと、女房らしく気が揉めはじめました。どうぞ御返事下さい。『廿日鼠』は私も面白いと思
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