置所の顕治宛 駒込林町より(ゴッホ筆「アルプスへの道」3ノ一、三岸節子筆「室内」3ノ二、土本ふみ筆「垣」3の三の絵はがき)〕

(3ノ一)隆治さんがジャ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へうつりました。そのハガキ貰って、大事にしてしまったら、仕舞いなくしてへこたれです。どうも見当りません。そちらへ来たらどうぞお教え下さいまし。送ったものはみんな行きちがいね。果して届くものかどうか。岩波の小辞典をお送りしました。『秀歌』は田舎へもってゆく分として一括したものの中にあり、そのうちとり出してお送りしましょう。なくしてハ居りませんから。少し勉強しようと思って大事にしてあります。
(この空の色はもっと濃く深く、糸杉はもっと厚い黒っぽいいい色だそうです)

(3ノ二)この人の絵をほかにおめにかけましたろうか。いつも大作を描き、いつもこういう更紗ばりのような展覧会エフェクトの多い画面です。絵のどういう面白さをここに出そうとするのかといつも思われます。婦人画家中の才人です。マチスまがいから段々堕しています。文学では模倣はたやすく見破られるが日本の洋画というものは音楽同様にまだ模倣に寛大な時代なので
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