を、万全つくして守ろうと努力して、より大きい力にその計画を挫かれた父親の心を深く同情して、通知を貰ったとき手紙をかき、お盆には娘さんにシートンの『動物記』をあげました。本当は、シューマンの詩人の恋というリード集のレコードがあってね、その歌曲を聴いていると、シューマンという人を通して、生粋の男の真の優しさ、情愛、愛着が身に沁みとおって感じられ、暖い暖い勇気を覚えます。その歌曲のメロディーに合わせて胸の底から鳴り出して来る女の真情が自覚されて来て、それは全く男の中の真実に相答えるものです。妻たる女が良人を愛しているという本当の意味で生きている女が、初めて感応する深みです。そのレコードをあげたら、親にも子にも話しても分らず、又言葉ではない良人のなさけ、それに浴した妻のよろこびと涙とを感じて、涙の中から最も感情として純粋に立ち上れると思ったのでした。今頃そんな高級レコードはおいそれと買えないのよ。それで生も死も純粋な形である野獣の生活、そこにある生命力情愛の様々をよんだら、何かこまごまと世情人情にからみこまれた気分から、清冽な気分を味えようと思って。
 そしたら一家じゅうの愛書となり大変よかっ
前へ 次へ
全440ページ中282ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング