きょうは颱風模様で、ここの隣組は防空演習なのに、咲枝気の毒です。私は出ないの。あぶないから、まだ。泰子は結核の方はかかっていないで、ああいう体だから恢復がむずかしいのですって。わたしの燐の注射は利くのでしょうが、薬が四年前に製造中止で十本しかないのは哀れです。頓服でいいのがあるけれども其も入手が骨で全くの貴重薬です。
スープの味はいかがでしたか。どうか呉々もお大事に。わたしのために、どうかいいよいいよとおっしゃらないでね。東洋経済へのお金のこと間違なくいたしますから。では又、きょうのようなべとつく日、さぞあつい湯で体をおふきになりたいことでしょう。
九月八日 (消印)〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(青森林檎畠の写真絵はがき)〕
九月八日
ペンさんが青森へ行って、おみやげに林檎《りんご》畑のえはがきを買って来てくれました。昔、「土」という映画があって、ウクライナの麦や果実がたわわに露にぬれているところを美しさきわまりなく芸術化したのがありました。それから見ればあまりつつましいけれども、それでもすがすがしさがあります。上林にもリンゴ畑の小さいのがありました。
九月八日
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