妻となり、兄の裏切りで良人を攻めほろぼされ、息子をころされ、清洲城にこもって十年暮したあと、本能寺の変後、柴田の妻となり、恋仇の秀吉に攻められ、娘三人(お茶々を入れて)を秀吉方へつかわして、自分は一年足らずつれそった勝家と城の天守で自尽するいきさつ。お茶々の短い後日譚を、おちぶれて宿場按摩になっているその男が物語った体です。
 谷崎らしく盲目の男の、美女である小谷の方とお茶々への感覚を絡めたり、当時流行の隆達節の考証をはさんだり、ともかく面白くよませました。しかしこうしてみると、谷崎の文学はもろいものですね。荷風の方が彼なりに粘っています。例えば例の「つゆのあとさき」、ね。あんなものにしろ、ともかく現代の、ああいう女給やそのひも[#「ひも」に傍点]の生活を見て、描写してかいています。「※[#「さんずい+墨」第3水準1−87−25]東綺譚」にしろ、冷やかで、独善で、すかないが、谷崎のように高野山あたりでのんきに納って、狐つきの話なんか、十年前に書いては居りません。
 谷崎のもろさは文学的に面白いことね、彼の文学上の下らない安易さ、もろさは彼の所謂悪魔主義が、この国の文化の性質らしく、ある
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