れていて好意を感じました。そして、こういう人たちの書く小説が、平常の心でかかれはじめているという事実、嘗て島木健作が、緊張し青筋を立て義人ぶった日本人を小説にかいてきた時代から四年の月日は、これだけの変化を日本の人の心にもたらしているということを興味ふかく感じました。

 八月三日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(香港 Flower street の写真絵はがき)〕

 八月三日。高見順の歴史小説というのは、目が疲れてよみませんでした。(『文芸』はうちへかして頂きましょうね)しかし、あの插画の木村荘八亜流をみて、歴史(明治初期)という空気が、ああいうアトモスフィアで好事的にランプ的に見られているのは不十分であり、それは変りにくいということを感じます。文学史にしろ、明治文学史研究家は裏糸を見ないで、表模様にだけ目をとられているとおり。カナカナがもう時々鳴くでしょう。

 八月三日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(江の島七里ヶ浜の写真絵はがき)〕

 八月三日、今午後三時半。わたしのおきまりの午睡から起きたところです。こんな時間なのに、この机の、二階の机の上の寒暖計はきっちりと九十
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