全体は小箪笥と云った風の本です。文学談の上手なひとというのもあるものですね。そんなことも感じます、それは文学がすき[#「文学がすき」に傍点]な人です、そして、どんな生きかたをしてもその人として文学は好きであり得るという現実があります。
呉々もお大事に。
八月一日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(江の島の写真絵はがき)〕
八月一日。自叙伝はなかなか興味深いものとなって来ました。且つ、たくさんのモラルをももって居り又現実の知識をも与えます。世界史が書かれる時が来たら、この自叙伝は多くの真実を呈供するでしょう。規模の大きい人間が、どういう視界をもっているかということについて、考えさせます。よく語り、しかも饒舌でない著述とはどういうものかということについても教えます。ガンジに対してにしろ、皮肉を云うより前に、先ず払うべき敬意のあることを知らせます。
八月三日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(鎌倉由比ヶ浜海水浴場の写真絵はがき)〕
八月三日。『文芸』の「かささぎ」という小説、三年ぶりに初めて雑誌小説をよみました。ほんとに小さい作品だけれども作者の心の本当のところから書か
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