しい心を思いおこします。命の自覚の内容も何とちがうでしょう、生物的な脅迫がないと、命はそんなに自然に、そのものとして人間を押しつつんでいるとも云えるのね、きっと。ゴーリキイの初期の「人間の誕生」という小説など、そういう点のロマンチシズムの文学ね。
 島田でシボレーをお買いになった由。乗物に不自由させぬ、とは何と大したことでしょう。(このごろは、目のために、速く動くのは苦しくて電車専門ですが。)私は、でも、島田へ行っても、商売用のそれの御厄介にはあんまりなるまいと、今から考えます。それは一つの身の謹しみですからね。東京から来て、のりまわしている、という感じがしたら、そのさもしさで、私が土地のものならやっぱり反感するわ。
「金髪のエクベルト」小説でしょうか、誰が書いたのかも存じません。『外交史』下巻と一緒に、どうぞ私に下さい。楽しみです。その簡潔で、詩趣あるという語り口が。
 ハガキに書いたように、もう四五回であついところを出かけることも終る由です。そうすると八月中旬になるでしょうから、汽車のこむ、宿のこむそういう時出かけずに、ここで、朝早く夜早く休む暮しをつづけ、よく湯を浴び、すこし午前
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