を北沢にお訪ねし、初めての遠出でクタクタになって帰ったら国男の入院さわぎで夜中バタバタやり、きのうは木曜日だったので根をつからせ、きょうは永い手紙がかけないの。国男は腸です、流行性の。血液を出したのですが、いいあんばいに大したことなく他にひろがりもしない様です。消毒は完全。こわいわね。

 七月二日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(ルノアール筆「カーニュのテラース」の絵はがき)〕

 ルノアールは水っぽい絵かきだけれども、この間見た村の水浴場の写真はおやと思うようなものでした。これはやっぱり例の赤っぽいものらしいことね。シャボンのこと、あなたの衣料切符はここへ寄留して取りました。が、シャボンは誰にも一人一ヶではないのよ、たまに九人に四つずつ浴用、洗濯が来るだけです。そこに居住していなくてはダめなのよ。これには閉口いたします。どこでもひどいやりくりで私はこの頃顔は洗粉一点張です。

 七月五日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

 七月四日(日曜日)
 けさ二日づけのお手紙ありがとう。この間うちいろいろの用事がたまってしまって。先ず用事から。シャボンのことはハガキで申しあ
前へ 次へ
全440ページ中175ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング