りでしょう。私は傘をさして出かけます。シートンの「動物記」をなぐさみによみます。スパルタの母のような女狐の話。黒い火のようなニューメキシコの野生鳥の話。なかなか面白く、人間の伝記のような波瀾と智慧くらべとに充ちています。あつい時読んでごらんになったらどうでしょうね。
六月二十八日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(徳山小学校の写真絵はがき)〕
これも古いハガキね、岩本の御主人はこの小学校から転任していらしたのでしょうか。あの徳山の黒塀の家へ、あなたが小さいときいらしたの? あの家には今誰か新任地の方の人が交換で住んでいる由です。私は盲腸がまだくっついていて、歩くとそれが痛く膏汗を出しながら徳山のお花見につれて頂きあの家へもよりました。座敷のぐるりに廊下があったわね。細い石じきの入口でしたね、私はあすこは余りいらしたことないのかと思って居りました。
七月二日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(紀伊田辺・奇峡巖の写真絵はがき)〕
七月二日。六月二十八日づけのお手紙ありがとう。あれへの御返事やその他書くのですが、きょうは大グロッキーで一寸一筆。三十日の夕刻、岩本のおばさま
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