高い人の初めの細君は、自分のぐざりとした気分から良人の生活とはなれ、自分にふさわしいと思った安易の道を辿りました。ところが、その道はひどい下り坂で、しかもバイブルの云うように、美しく幅ひろくもなかったの。こけつまろびつ、体をわるくして、あとから婚約した人とも破れ、今中野の療養所にいます。咽喉を犯されたって。小説をかいてよんでくれと云います。よむと、自分を哀れな孤独なものとして美化して描き、終始その孤独を甘やかし、何故に一人の人間が孤独に陥ったかということについて自身を考えて見ません。決してその点をえぐらないの。ですから小説の人間成長の点で堂々めぐりで、云ってやっても感じないの。ぐざりとして腰をねじくったポーズを今に到っても立て直せず、恐らくこの人は気の毒ながら、女の一生とか孤独とか人の情のうすさとか私の気むずかしさとかそんな思いに一生を閉じるでしょう。病人だと思って私は小説はよむことにしています。けれどもいやなの。哀れで腹立たしいの。どうして自分の初めの一歩の逸《そ》れが一生を誤らしたと真面目に思わないのかと。
 昔の良人の兄弟とその妻たちは類例の少い人たちで、本当の同胞思いです。長兄
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