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〔欄外に〕
 作中人物が典型であるということと原型ということとはちがうということを感じます。大ざっぱに同じように云いならわされて来ていましたね。
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 そして、彼がナポレオン以後のくされ切ったフランスの膿汁を突き出しながら、やはり時代の下らなさをうけていて、「幻滅」のダヴィドとエーヴという善人たちはつまり平凡な金利生活に封鎖してしまっています。エーヴは、賢くも夫ダヴィッドを、発明というあぶない仕事から遠ざけることに成功した、のだそうです。
 この作家の偉大さは、人間の関係をえぐったところにあり、限界は人間を固定して操っているところにあります、人間は進むということは分らなかったのね、利害そのものの本質が変り得るということが分らなかったのね、利害というものを、権力、名誉、金銭だけに限って見たところに、この巨人の檻のめが見えます。
 それにしても彼はやはり並々の作家ではありません。卑俗な欲望にわが一生もゆだねてこづきまわされつつ、あれだけ観察し、描破しています、その力は凡庸ではないわ。
 私たちのまわりには卑俗に且つ盛に小刀細工をやって暮している人間たちが少なからずいます、が、彼等は自分の卑しさの一つさえも文学にする力量をもっていません。精神の貧弱さの故の卑小さしかないというのは詰らないことね、野心さえもない卑俗さなど何と下らないでしょう。
 それからね、これは可笑しなスモール・トークの一つですけれどね、フランスの社会で代議士というものがどういうものかということが、「幻滅」を見てよく分ります。第一金がある、それが第一。それから地位がたかい。永年のひどいからくりか地位によって獲得するものです。フェリシタという女のひとが中野秀人という、絵カキ詩人の細君になって、陶器人形のように白く丸くきれいで内容虚無な顔を日本にもって来たのは、そのためだったのね、兄貴は有名な代議士でしたもの。日本の代議士はそういうフランスの慣習的な解釈にあながち適合しなかったのね。
 わたしが茶色の外套をきてベレーをかぶって、クラマールという郊外に下宿していたとき、フェリシタをよく見かけました。
 バルザックをつづけてよみます。これ迄バルザックは私にとってのマッタアホーンのようなもので、頂上はきわめなかったのですもの。古典についていろいろ云われた九年ほど前に、私は自分の幼稚な鍬で力一杯この巨きい泥のかたまりをかっぽったけれど、それはいく分その形成の過程を明らかにしただけで、自分の文学の潜勢力として吸収するところ迄ゆけませんでした。こんどは、かんで、たべて、のみこんで、滋養にしようというのよ、この頃余り滋養分がないからね、バルザックをよみとおせば、どんなに新しい文学は新しい人間生活の領域につき出されているかということが一層明瞭となり、未踏の土地への探険が一層心づよく準備されるというものです。
 先日、わたしがうつけ者のような顔つきになったニュースについても、段々別箇の観かたが出て来ました。世間では、荒い商売をして、負債のどっさり出来た人が破産して、却って自分の財政を立て直すでしょう? あれなのだ、と思いはじめました。あの位きついところのある、そして賢い人は、聰明というものの清澄な洞察はなくても、生きる力のつよい人間としての見とおしと覚悟は出来ているでしょう。内外の紛糾ときがたいから、わが身一つとなったわけでしょう。大したつよ気かもしれないわ。だから、わたしは安心して、その人のやりかたにまかせ、自分はせっせと勉強いたします。
 寿江子が船橋あたりに別居します。小さい一軒をもって。今年中に何とか形をつけるよう国男との間に話があった由で、わたしがきいた家がうまくものになりそうなのです。今一軒もつことは大した仕事ですが、寿は、その方がさっぱり暮せると思っているし、うちの連中は業を煮やしていて、すこし苦労して見れば、その手前勝手は直るだろう、という考えです。
 どちらも、大人子供よ。実に大人子供よ。寿の方は、大人子供のまま、ひねこびて、術策があるから、それのない側が絶えず不快がり、それを感じつつ変な押しで通して来ているから、寿の、わるい社交性みたいなもの、空々しさ、全く悲しいものです。こんなに急速に変るなんて。今は実に消耗的なのね、戦で死ぬ、負傷する、そういうのばかりか、こうして、直接には苦痛を蒙らないように見える部分が、ひどい質の変化を経過いたします。
 Sの方も大した状態です。いつぞや私が思わず、あなたにまで毒気を吹きかけてしまった状態は、根本的には改善されていません。生理的の原因ばかりでなく、生活目的というか、日々の些末なつかれるいそがしさに挫かれて、反撥して、すてて逃げ出したいのね、こういう心理はこわいものだと沁々思いました。良人のため
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