楽学校最後の卒業式となります。女子の方の学校はどうなのか、やはり文化系統はなくなるのかよくわかりませんが。夜間の学校も商業などはなくなります。学生の兵役猶予はなくなり理工が八ヵ月のばされます。十七種の職業に四十歳以下の男子がつくことを禁ぜられ、それは事務員から料理人理髪までに及びます。都役所だけで一万何千人とかの人が重要産業に向くのだそうです。
こまかいことは書ききれませんが、画期的な一歩であり、感銘も浅くなく日常生活も多く変化いたしましょう。うちでは直接関係のものが少いけれども、文学者を考えても阿部知二のように東北の講師をしたりしている人たちは、どうして暮すでしょう。純粋に語学の教師なら、理工科だってドイツ語フランス語英語は入用でしょうが、作家を半ばの魅力にして講師をしていた人などは大窮迫でしょうし、文科の教師たちもなかなかの困難にめぐり合う次第でしょう。
出版整備の見とおしも、この面から推しても略想像されます。三千軒が二百軒になるのみならず、企画は理工科出版と所謂教養に重点をおいて純文学は何パーセントを占めることが出来ましょうか。
自分の仕事との連関でも、深く考えるところがあります。そして、遂にジャーナリズムの枠をはなれて真の作家的生活を送るべき時に立ち到ったことを痛感いたします。作家の生涯に、こういう異状な時代を経験することは様々な意味で千載一遇であり、そこで立ちくされるか磨滅するか何らかの業績をのこすかおそるべき時代であり、各人の精励と覚悟だけが、決定するようなものです。生活の設計も従って一層本気に再構成されなくてはなりますまい。何となしの可能として考えられていた条件を一さいとりはらった上で組立てられなければならないわけですから。
それでも私としてはこういう時機にめぐり合う者として、どちらかと云えば仕合わせと思って居ります。私の場合では自分にかかわるいろいろの事情が、大変納得のゆく又作家として自信も失わない性質の条件で、そのことは騒然と爪先立った処置、身のふりかたとして状態をうけとらせず、もっと文学の本質に即して永い目で、日本文学の消長について自身をも含め考えさせ、それは生活の感情に浸透して居ります。いよいよ落付いて、という方向へ気を向けさせるわけですから。ただ、貧乏は一層ひどくなりますから、どうぞあしからず。そちらの最低限は(今ぐらい)何とかやりく
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