とは遙かおくれたドイツが、あぶれた若者をどっさり出していて、それらはみんな冒険[#「冒険」に傍点]を求めて――ドン・キホーテとはちがったもの――他人のために他国のために殺し合いを行い同志打ちを行っていたことは、実におどろかれる姿です。こういう分散状態はナポレオン時代もつづき、ビスマルクのとき迄つづき、従って、統一への情熱というものは、病的な伝統をもっているわけでしょう。
ケプラーは、アインシュタインよりも人間として純潔であり骨があり、其故偉大です。彼は、当時天文学と云えば占星術で、カイゼル時[#「時」に「ママ」の注記]天文学者というのは一方では皇帝の運勢の番人であり、半分だけ科学者でありました。庇護者は庇護しているものの真価はブラーエにしろケプラーにしろ、ちっとも分ってはいなかったのでしたが、ケプラーは、星が人間を支配しないことをはっきりワレンシュタインに云っています。只ケプラーは全く活きた智力をもえたたせていた男で、当時の新旧徒の闘争の悲惨、無意味それを利する勢力の消長につき、つねに具体的観察をもっていて、占星術の予言は世人を常に瞠若たらしめる適中を示しました。(事実の諸条件からの起り得べき可能を天候と人事について語ったのですから)
こういう実証的な大才能はケプラーにおいて始めて近代が花開きそめたと思われます。お母さんは傭兵になって良人に彷徨され、それをフランダースの戦場へ迄さがしに行ってつれ戻したという剛毅な女でしたが、ほかの男の子は錫職人――当時のドイツにあって、尊敬すべき職業に従事した市民[#「尊敬すべき職業に従事した市民」に傍点]、兄より威張っていた男――一人をのぞいて、二人ほどならずものが出て、不幸のためエクセントリックな老婆となりました。そしたら当時のリアクションと小人的悪意によって(ケプラーへの)母親は魔女《ヘクセ》と云われ、裁判にかけられ、拷問され、やきころされそうになりました。この無実がはれる迄前後五年かかりました。老婆は地下の拷問室で卒倒しながらも自分は白状する何事もないと云い、ケプラーはこれは一人自分の母だけの問題でないと、実におどろかれる努力をして真に裁判の純正を求め、近代の方法――事実に立脚した法の適用――を方法として大公に示し、人文史上大貢献をしています。例が実に面白いの。魔女《ヘクセ》問題らしく、一人の農夫は、あのヘクセ奴がうちの
前へ
次へ
全220ページ中152ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング