いる様子です。結核性の。赤坊がいるから私は大いに気にしていますが母親の感情は一層微妙ですから注意をうながすにしても方法がデリケートです。いやがってやかましく云うと思いがちですから。泰子は可哀想だし咲も可哀想ね。きょうブドー糖の注射をしました。食餌がいけないからよ。
 さて、私は昨夜久しぶりでほんとにいい心持となり楽になって、ひどい汗にも苦しまず眠りました。あなたはやや体の不安がすぎたようにふっくりと伸々と臥ていらしたわね、どんなにうれしかったでしょう。疲れも当然見えますが、それはこわいようなものでありません。熱がやたらに上らなかったのは、もう一つの病気のため、万々歳です。
 こんどは、私も一緒に体じゅうがどうかなったようになって、昨日までは本当に妙でした。神経が緊張してしまって、その疲れで夜が苦しかったのよ。病的に汗が出たりして。きのうは、咲枝は子供の心配がとれないのだから、「現金で御免ね」と云い乍らしんからほっとして上機嫌な晩をすごしました。
 この何年かの間に、あなたは随分ひどい病気を次々となさり、どうにかそれに克って来ていらっしゃるのは、考えればまことに大したことです。先ず猩紅熱からして、ね。もうこれがしまいで、段々恢復の条件がととのったら順調によくなって行らっしゃることでしょう。みんなびっくりして、呉々お大事とのことです。栄さんや何か。
 けさはね、すこしのんびりとした手紙をかくのよ、いづみ子の近況などについて。いづみ子も近頃はもう全く一人前の淑女で、ぽっちりと鮮やかな顔色や柔軟でしかもいかにも弾力のこもった全身の動きや、なかなかみごとな存在となりました。あれの特徴であった何となし稚気なところもそのままながら、どこか靭さをまして豊醇です。そしたらね、つい近頃短いたよりをよこして、ごく内輪な表現ですけれども、どうしても好ちゃんのほかに旦那さんはないと心を決めたらしい風です。今時の女の子に似合わず、大変含みのある表現でそれを云って居りますが、そのために却って心の一途さがくみとれます。それはあの二人はどうせ切ってもきれない仲だけれども、いづみ子は次第に目ざめる深い女の心でひとしおそのことをつよく感じ、自分たちの結びつきの又となさについて感銘している様子です。好ちゃんは、あのこのつい近所までよく行くことがあるらしいのよ。でも御存知のとおり兵隊さんでしょう? 時間があ
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