なくなったこと御存じでしょうか。この間一寸した買物があって、迎えに来た書生さんつれて肴町まで二停留場か乗ったら二十銭でびっくりしました。すぐ一円はかかりますね。特急その他坐席指定もなくなりました。そして省線のように立つところのついた汽車が走るようになっているそうです。
森長さんのは木曜日に届けました。手紙つけて。しかし何とも音沙汰なしです。おっしゃった通り、例年のとおりしたのですが、よかったのかしら。物足りないのかしら。いつも手紙よこしたりしていたから何だか調子がかわって感じられますが。いかがなものでしょうね。
隆治さんの方へ雑誌や本はゆくことがわかりました。
『世界知識』というの、今出ているの? こんど自分で南天堂へでも行っていろいろ注文をまとめ、整理しなくては。そのときよさそうな本もさがしましょう。自分で見なくては何だか全く思うにまかせませんから。どうかもう少しお待ち下さい。木曜と月曜との間は、少し時間があって休まりますから、来週ごろ行って見ましょう。
夜具、前へお願いいたします。本月の末夏ぶとん届けます、そのとき冬のをもち帰ってもらいますから。夏ぶとんは縫い直してないのだけれど、今年はかんべんしていただきます。カバーはパリッとしたのつけますから、ね。毛布も、もう一枚の方、洗いましょうね。七月八月九月の中頃まで私がいないと、実に不便で、すまないと思います。寿江はもうどこへか行くのだそうですし、せめて一度ぐらい行ってもらえるといいのだけれども。
不思議なものね、生活をこまかく知って、病気の世話もあれだけしてくれたのだから、生活の必要事が会得されて、事務的にやって貰えそうなのに、全く反対というのは。気分による生きかたというところ、どうしたって抜けないで寧ろ年のせいでかたまって来る、これは殆ど腹立たしいことです。死ぬ生きるという時しか奮起しない。だから私はよく半ば苦笑していうのよ。この家ではひっくり返りでもしない限り、本気にならない、と。何という目標なしに生きることも、多くの人の人生がそうと云えばそうかも知れないが、働かなければ食えないということのない、東京にいなければならないというのでもない、戦争へ行かなければならないというのでもない、ましてや火のない冬の石室住居になんか耐える必要もない、という人々の生活には、何とも云えないチカンがあって、それこそ根本の病源
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