て、絶対手ばなせないというわけでしたろう。そして、やっと形をつけるところまで漕ぎつけたのですから。私はこの一人の若いうしろだてというもののない勝気な女の人の人生への処しかたを眺め、いろいろと学ぶところがありました。しのぎを削るという言葉は、こういう人の無言のこういう場合にもあるものであると知りました。よくなろうという向上心で、本の話もする人にひかれ、その人と、処世上まとまった体面のある生活をつくるために、その過程に人としてひどい抜目ないこわい位のいやな人になるというのは何という悲惨でしょう。薄弱な男をつかんではなさず良人にしたてる若い女の骨折りはきつくて、全く世俗的な努力でちょっとまともに見かねます。それでもこの女のひとの場合、その男にふられた形になるよりは、成功ということで自分も満足するのでしょう。ですから、大変ね、ということは只家のものが大変ねという位のことではないわけよ。是が非でもスラムから這いのぼろうとするこういう努力の方向は、私に無限の感想をもたらしますから。
『週刊朝日』は、予約出来ることになりました。こちらは安心です。『毎日』の方何とかしたいものです。これは近いうちに何とかしてみます。『独語文化』まだもって来ません(本や)どうしたかしら。
マホー瓶は、弱りねえ。そういう修繕の方法はどこも対手にしないし、第一湯でビンがすぐわれて(普通のビンは、ガラスが厚く、そして不平均だからの由)全く意味ないというので、目白のお医者さんが地方へ出かけるので、そちらをしらべて見てくれるそうです。そちらでもどうぞよろしく。あれはコップがアルマイトだし、なかなかいいものなのに惜しかったことね。
きょうは、多賀ちゃんにこの冬あなたの召す着物縫うことをたのんで送りました。毎年、厚い綿入れをつくるのに苦労して来たところ、この節は国民の標準服ということで大人は冬でも袷ということになりましたから、仕立屋がごたく並べる機会がふえたわけです。まるで暖いものを着せたがる私がわるいようであんまりだから、今年は多賀ちゃんがひとのものも縫っているというから、たのむことにいたしました。お着になるのもいい心持でしょう、それは本当にあなたが心持よくと思って縫われたものですものね。うれしいと思います。
電車が十銭一循環となって四度までのりかえがきき、五銭足してバスと連絡したり定期をつかえたりしたのが
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