臥《ね》た晩に(父、子が下へ降りて、私一人で眠れるようになった晩)大変綺麗な面白い夢を見て、またの時、スエコを掴え、その話を書いてもらうのが楽しみです。その夢の話をきけば、私がやっとこの頃ゆるやかな神経で横にもなっていることが判っていただけるでしょう。
風邪をおひきにならないように。ほんとうに頭から一寸物をかぶると暖いらしいことよ、かつぎのように。
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[自注1]ペンさん――百合子の眼のわるい期間、代筆等を手伝ってくれた娘さん。
[#ここで字下げ終わり]
一月十六日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
一月十六日
十二日づけのお手紙をありがとう。その御返事というわけでもないのよ。約束を守らないとお思いになるかもしれないけれども、この間うちから我慢をつづけて、代筆で。でも、明月詩集[自注2]の物語ばかりは誰に書かせたら私がたんのう出来るものでしょう。しかも、「しきりに寒夜月明の詩を思う」と書かれているときに。そうかいたのは誰でしょう。
去年よりは小さい字が書けるようになったでしょう、依然としてぎごちなくリズムが欠けていて妙ですが。
きょうから毎日一二枚ずつ書いて出したら二十三日前に着くでしょうか。気をつけて少しずつしか書かないから大丈夫です。丁度日向に長くいて日かげの部屋へ入り、そこでものを見ようとするとマクマクでしょう。あんな工合にこの紙や字が自分に見えます。
今のところでは今年も割合暖いようですね、昔の冬は春のようだと思えるほどの時もあったりしたけれど。
この頃、私はもととは流儀をかえて、夜眠る前にいろいろ考えるよりは寧ろ朝めをさまし雨戸をあけて床に永くいるときに、静かで暖かで新鮮になってどっさりのことを考えます。明るい月の流れ入る窓の詩は夜のうたではあるけれども、あれはうたの心の天真さやまじりけのないつよい歓びの情などから朝の光のすがすがしさとも実によく似合います。一層美しさが浮き立つようよ。そしてそのような熱くてすき透ったような詩趣は朝のうたの諧調をも同じように貫いて響いて居ます。なじみ深い愛誦の詩をまた再び声を合わせ格調を揃えて読もうとする気持は何にたとえたらいいでしょう。
残念なことに私の物をかく力はまだあの詩ものがたりの旺盛なやさしい諸情景をこまかく散文にかきなおしておなぐさみとして送るまで達者になっ
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